OpenAIがmicrosoftを反トラスト法違反で告発検討という報道がありました。まだ検討段階ですが、両者がここ最近険悪になっていることを表していると思うのでどういった背景があるのかをふかぼっていきます。
OpenAI、独禁法違反でMicrosoft告発を検討か WSJ報道
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN1701X0X10C25A6000000/?n_cid=SNSTW001&n_tw=1750112595
そもそもの二者の関係性
2019年、MicrosoftはOpenAIに10億ドルを投資し、Azureクラウドの独占提供と引き換えに技術アクセス権を得るパートナーシップを開始しました 。協力関係は深化し、2023年には累計投資額が130億ドル超に達します。
しかし、ChatGPTの爆発的な成功でOpenAIが巨大化すると、両社は競合製品を開発し始め、関係は協力から競争へと変化しました 。現在では、OpenAIの企業再編や知的財産権の扱いを巡って深刻に対立し、OpenAIが独占禁止法違反での告発を検討するほど関係が悪化しています 。
告発内容
告訴しようとしている内容は下記なんじゃないかと言われています。
- 企業再編時の株式比率
- Windsurfと競合する件
- クラウドの独占契約
企業再編時の株式比率
OpenAIは、汎用人工知能(AGI)開発という壮大な目標を達成するために、天文学的な額の資金を必要としている。その一環として、ソフトバンクが主導するとされる400億ドル規模の資金調達や、将来的な株式公開(IPO)を視野に入れている 。これを実現するため、同社は現在の「利益上限付き」モデルから、より柔軟な資金調達が可能な完全営利の公益法人(Public Benefit Corporation, PBC)への転換を計画している 。
この企業再編には、130億ドル以上を投じた最大の投資家であるMicrosoftの承認が不可欠である 。交渉の最大の難関は、再編後の新会社においてMicrosoftが受け取る株式の比率である。Microsoftは、これまでの投資に見合う、より大きな株式比率を要求しているが、OpenAIはそれを許容できないでいる 。
この膠着状態を打開するため、OpenAI側から具体的な提案がなされたと報じられている。それは、Microsoftが将来の利益分配権を放棄する代わりに、再編後の新会社における株式保有比率を33%とする、というものである 。この提案は、両社がいかに複雑な財務的・戦略的計算の上で交渉に臨んでいるかを物語っている。
クラウドの独占契約の変遷
2019年の提携開始以来、OpenAIの巨大なモデル開発と運用に必要な計算能力は、Microsoftのクラウドプラットフォーム「Azure」が独占的に供給してきた 。これは、OpenAIに安定したインフラを、MicrosoftにAI分野での重要な顧客と実績を提供する、初期のWin-Win関係の礎であった。
しかし、ChatGPTの爆発的な成功により、OpenAIが必要とする計算能力は指数関数的に増大し、単一のプロバイダーでは賄いきれない規模に達しつつある。同時に、OpenAIは事業戦略上の重要なインフラを単一のパートナーに依存するリスクを強く認識するようになった 。
このため、OpenAIはインフラの多様化を積極的に推進し、Microsoftの直接のライバルであるGoogle CloudやOracleとも大型契約を締結した 。これにより、かつてのAzureの独占供給契約は大きな見直しを迫られ、交渉の主要な論点となった 。最近の報道によれば、この独占条項は緩和され、Microsoftが新たな計算能力の供給に対して「優先交渉権(Right of First Refusal, ROFR)」を持つという形に落ち着いたとされるが、これは当初の契約からの大きな後退であり、両社間の摩擦の大きさを物語っている 。
windsurfの買収がきっかけ?
既存のパートナーシップ契約では、MicrosoftはOpenAIのモデルや技術を含む、ほぼ全てのIPにアクセスする広範な権利を有している 。
この問題が先鋭化したのは、OpenAIが30億ドル規模で計画しているAIコーディング・スタートアップ「Windsurf」の買収である 。OpenAIは、この買収によって得られるWindsurfの技術やIPが、既存の契約に基づきMicrosoftの手に渡ることを強く拒否している 。
その背景には、MicrosoftがすでにAIコーディング支援ツール「GitHub Copilot」という強力な競合製品を擁しているという事実がある。皮肉なことに、このGitHub Copilotも元々はOpenAIの技術を基に開発されたものである。OpenAIから見れば、Windsurfの先進的なIPをMicrosoftに提供することは、自社の競合相手を直接的に強化するに等しい行為であり、到底受け入れられるものではない。このWindsurfを巡るジレンマは、両社がもはや単なるパートナーではなく、市場で直接競合するライバルになったという現実を浮き彫りにしている。