今回はエコシステム・ディスラプションについて解説していきます。一言でいうと今、会社単体でユーザーに価値を提供するのは難しくなっており、様々な会社が協力してユーザーに価値を提供しています。
その連合をエコシステムと呼び、エコシステムを作るにはどうしたらいいのか、どう守ればいいのかを説いた本になります。
様々な外交、駆け引きがあり、さながら戦国時代のよう。spotifyなどの事例をもとに歴史とともに学べます。
なぜエコシステムが大切か?
まず、なぜエコシステムが大切なのかについて説明します。エコシステムというのはユーザーに価値を提供するための企業間連合です。例えば写真アプリはスマホ、アプリストアなどと連携してユーザーに価値提供しています。
現代ではユーザーへの価値提供が高度化しており、様々な業界で単体での価値提供では収まらなくなっています。
ものを売っていた時代から体験を売る時代になっていると言ってもいいです。
そのため自社、ないしは単体の売り物だけではなく、関連する企業と協力するしあうエコシステム五と考えないと勝てないのです。
エコシステムの定義
そもそもエコシステムとは何かですが、価値構造を作るためのパートナーシップになります。その価値構造とは価値提案をするための要素になります。
そして価値提案はエンドユーザーに提供する価値になります。
- 価値提案:エンドユーザーに提供する価値
- 価値構造:価値提案を行うための構成要素
- エコシステム:価値構造を実現するためのパートナーシップ
例えばカメラを作っていたコダック社はエンドユーザーにカメラで写真をとり、プリントアウトして共有できるという価値提供を行っていました。
これを価値構造にすると下記になります。
- 写真を撮る(カメラ)
- プリントアウトする(プリンター)
- 共有する
エコシステムは価値構造を作り出すための手段になり、価値構造を自社で作りきることも可能です。
エコシステムを理解しないとゲームのルールを見誤る
本書のメインメッセージの一つが
「ゲームのルールを見誤ると負ける」
ということです。
上記のコダックの例で説明するとコダックはデジタルカメラもつくり、カメラという市場においては先進的な企業でした。しかし、スマホに負け、上場廃止にまで追い込まれ、現在はカメラでは撤退し、商業印刷の会社になっています。
なぜこう言うことが起こったかというと
「写真を撮り、共有する」
という価値提案においてスマホはSNSなどと連携し、共有での価値提供を非常に強力にしたからです。カメラやそれを移すスクリーンが非力な時代はカメラが強く、コダックが市場を取っていました。
しかし、その2つが進化し、単体のカメラと質が変わらなくなりました。まずここでの条件がイーブンになります。その上でスマホはSNSやメッセージングアプリと協業し、共有の価値を高めました。
ゲームのルールがそもそもカメラ単体の機能をよくするではなく、共有も含めた体験を良くするになり、変わったのです。
どう守るか?
エコシステムの守り方には大きく分けて3つあります。
- パートナーを集めて再配置し、自社の価値構造を修正する
- 同じ考えのパートナーと協業の基盤を築く
- 野心を自制し、防御の同盟を維持する
amazon vs ウェイフェア(wayfair)
家具のECであるウェイフェアは2度敵を撃退している。まず一回目が彼らがECとして立ち上がる際に店舗の家具屋に勝っています。
この際彼らは
「家具を店舗では実現できない品数揃える」
店舗に対しては「物流を提供する」
これらの価値提案で勝ちました。物流や決済というメリットを提示し、家具メーカーとのエコシステムを作り出し、勝ったのです。
しかし、その後同じECであるamazonが来ます。このamazonには決済や物流では勝てません。そこで下記のような家具を3Dでシミュレーションできる機能を作り、ユーザーが検討しやすいようにしました。

価値提案を
「家具をオンラインでもシミュレーションしながら選べる」
と変化させたのです。
これは組み合わせをユーザーは試したいので家具メーカー単体ではできません。家具メーカーへのメリット提示はより強くなり、エコシステムをつくりやすくなります。
既存の配送と決済ではamazonに敵わないので、複数の家具をシミュレーションできるという新たな軸を作り、amazonに勝ったのです。
googleを脅威に思う者たちの連合 トムトム vs google
トムトムはカーナビのメーカーだったがgoogle mapの登場でその立場が危うくなりました。スマホを持っていれば無料でgoogle mapが使えたのでユーザーはそちらに流れたのです。
googleは位置情報が取れれば広告事業に使えるのでgoogle map自体で収益を上げる必要がなく、ビジネス構造上、価格で勝つのは難しい状況でした。
そこでトムトムは同盟者を募ります。googleのライバルであるuberなどにgoogleに情報を抜かれないようにトムトムの地図情報を使わないですかと地図情報をtoBで販売し始めたのです。
敵の敵は友というわけでgoogleのライバルだったからこそ顧客になり得たのです。
spotifyはなぜappleに勝ったのか?
spotifyは今では巨大な音楽配信プラットフォームですが、開始時にはすでにapple musicという巨大なライバルがいました。それにもかかわらず彼らが台頭できたのはレーベルとapple musicの関係性が要因としてあります。
apple musicはオンラインでの楽曲販売を最初に切り開いたサービスです。それまではオンラインでは違法の海賊版の配信がメインでした。レーベルは公式で楽曲販売することで違法DLしている人たちが利用し、売上が戻ると信じました。
実際、apple musicは売上が上がるのですが、レーベル全体の売上はなんと下がったのです。
これはapple musicを買ってくれている人が違法DLしている人たちでなく、CDを買っていた人たちだったからでした。しかもCDを購入する場合アルバム単位での購入になりますが、apple musicでは楽曲単位でバラで買えます。
このせいで逆に売上は下がってしまったのです。
値付けに失敗したことに気づいたレーベルはappleと交渉するもappleにオンライン販売を独占されていたため全く主導権を握れていませんでした。ここで独占されることの恐ろしさを知ったのです。
ここで出てきたのがspotifyでレーベルとしてはspotifyがいいというよりもappple以外でオンライン配信をするサービスを建てないと自分たちがずっとappleの言いなりであるという危機感でした。
この力関係をうまく利用し、spotifyはレーベルとのエコシステムを構築し、配信事業を開始できます。
既存のエコシステムが仇になることも
spotifyは上記の戦略でレーベルの協力を得ることができましたが、それが後々仇になることもありました。
spotifyが大きくなり、アーティスト本人とつながるという話が出ましたが、その際にレーベルの猛反対に合ったのです。レーベルを中抜きする形になるので当然で当時レーベル所属アーティストの楽曲が大半をしめていたのでspotifyは断念します。
これは既存のエコシステムがマイナスに働いた例です。逆に1企業が複数のポジションを取れないことからこういった隙間が新規参入のチャンスであったりします。
どうエコシステムを構築するか?
- 最初は最小限の要素で構成する
- 段階的に拡張する
- エコシステムを継承する
まずは最小限の要素でエコシステムを作る
1つ目と2つ目は同じようなことを言っていて、エコシステムは最初小さく作り、あとで段々と大きくしていく形がいい。多くのエコシステムがそもそもエンドユーザーに協力してサービス提供するので売上のパイも限られている。
最初ユーザーがいないうちにパートナーを増やしても不平不満が貯まる。まずは適切なパートナー数にして需要と供給のバランスを取らないといけない。
そこからユーザーが増えた段階でそれに即した形で大きくしていく。
段階的に拡張したアレクサ
ただ、大きくしていくというのは単純に同じ構成要素で大きくしていくことだけではない。構成要素を外に大きくしていくことも必要です。
アレクサは最初は技術的に劣っていると揶揄されましたが、2022年時点ではスマートスピーカーの分野でトップを走っています。
まず、アレクサは発売時にamazon musicをだしました。amazon musicもspotifyの二番煎じだろと言われましたがこの2つの組み合わせでまず音楽を聞くスピーカーとしての価値を発揮します。
google homeの検索よりもmusicのほうが利用頻度が高く、音声のデータも集まっていきました。
次にスキルをamazon以外の開発者も開発できるようにしました。
更に他の家電メーカーが使えるようにアレクサを提供していきます。つまり下記で価値とエコシステムを拡張していったのです。
- amazon musicとの連携でスピーカーとして価値提供。この段階では自社に閉じている。
- ユーザーが増えた段階でスキルを開発できるようにし、よりいろんなことをできるように
- 更に増えたら他の家電メーカーも使えるようにしてスピーカーからスマートホームの導入窓口に
エコシステムの継承
一度エコシステムを構築できても時代の移り変わりにより、そもそもの価値提案が変わったり力関係が変わり、エコシステムが壊れることがある。
再度作らないといけない場合、以前のエコシステムを継承できると競争を優位に進められる。
私見:ユーザーを継承するかパートナーを継承するか
一番よくあるパターンはユーザーを継承するというもの。エンドユーザーのニーズを確保できていればパートナーは再度協力してくれる。
私見:プレイヤーからプラットフォームに
プレイヤーからプラットフォームになるパターンも有る。プレイヤーとしてエンドユーザーを確保し、そのエンドユーザーを他のプレイヤーに流すためにプラットフォーム化する。
逆にプラットフォームからプレイヤーを兼任するようになる場合もあるがその際にはプレイヤーとの衝突があり得る。
私見
webサービスは特にメーカーなども全て自社で完結させるよりプラットフォームとしてエコシステムを作り価値提供する事が多く、当事者として読める人も多いと思う。
この本はルールが変わった際に対応できるようにしようというのをメッセージにしているが、外交戦略も非常に参考になる。
spotifyの事例のようにすでにあるエコシステムで逆に身動きが取れなくなる場合もあるので、新規参入者はそこを意識し、ポジショニングする必要がある。
また、エコシステムの継承はエンドユーザーとのリーチを持っているところが圧倒的に有利なためリーチを取れるポジションにいれるかが重要。
しかし、昨今のデータアルゴリズムの台頭により、データを蓄積できるかというのも関係するようになった。